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コラム記事

醗酵裏話「味噌作りを失敗する方法」

醗酵裏話「味噌作りを失敗する方法」

梅小路醗酵所でアドバイザーを務めております、ハッピー太郎こと池島幸太郎です。
今回は、いよいよ冬を迎えるにあたって、お味噌作りを今年はやってみようという方に、これをやれば失敗する方法をアドバイスさせていただきます。

なんだそれ?という方、ぜひ最後まで読んでいってくださいな。実はそれは話のきっかけで、決して皆さんに失敗してほしいということではありません。ぜひ成功してほしいので、私はnoteというプラットフォームに、有料ではありますが味噌作りについて記事を上げています。

お味噌作りの丁寧すぎる説明

たった300円で1万文字を超えるお味噌作りの説明に動画がついてくるのですから、これは買うしか無いと自分でも思うのです。(宣伝みたいでごめんなさい。)

でも、上の記事には欠点があります。それは、

「こうすればお味噌作りは失敗する」ということに特化して整理されていない、ということです

私は今まで、米麹、甘酒、味噌、鮒寿司、漬物、どぶろくなどを作り続けてきましたが、それをどうして仕事にできているのでしょうか。それは、「発酵食品を作るのが得意で上手だから」でしょうか。私は決してそうは思っていないのです。むしろ
発酵食品の中でもこうすれば失敗するということを理解しているもののみを仕事にしている」ということだろうと思います。

発酵仕事とは、決して常に100点満点のものを作り出していなくちゃ成り立たないのではなく「常に80点以上=安定して美味しい であること」がまず大事であると考えます。1月10日に仕込んだ味噌は120点だったけど、1月30日に仕込んだ味噌は50点だった。では、仕事(販売)になりません。つまり、「80点未満=失敗を、どうすれば避けることができるのか」。それを掴むことが「仕事にできるかどうか」を左右するということが私の考えです。

ということは、「失敗をどうすれば避けることができるか」を理解していないものは仕事にしないということでもあります。例えば私は「ぬか床」の失敗を避ける方法はいまいち掴めません。「変な匂いだな。あれ???」ということになって、なんとか復旧を試みますが結局ダメになったことは何度もあります。その変な匂いがする前に「失敗の予兆」を掴むこともできない。だから、仕事にはしません。

失敗する理由がわからなければ、そして失敗することを必ず避けることができなければ、経営計画は立てられません。来月はこれだけの糀を販売しようと計画しても、糀が不出来で評判が悪くなったり廃棄するようでしたら、経営にはなりえません。必ず販売できるレベルのもの(80点)ができると自信があるから、経営計画が立てられるのです。それがもし大成功で120点なら万々歳ですし、それはラッキーなことです。

それでは、皆さんが気になるであろう、「お味噌作りの失敗する方法」を列挙しましょう。つまり、これらを避ければ、成功する確率が高くなるわけです。

味噌作りを失敗する方法(米麹と大豆のお味噌)

・古すぎる大豆を使う
よくあるのですが、余っていた古い大豆を使うと大豆が柔らかく炊けずボソボソとなることがあります。そうなると美味しいお味噌にはなりません。古くても農家さんの「定温冷蔵庫」で管理されていたものは大丈夫の可能性大。でも、一番失敗の可能性が低いのは「収穫したての新しい大豆」で仕込むことです。

・大豆が水を吸い切れていない
よくネットの情報で「一晩水に浸けましょう」という風に書かれていることがありますが、冷たい水に8時間程度水に浸けたとしても、大豆は完全に吸水しません。そうすると、いくら炊いても大豆は柔らかくなりません。私は最低18時間。長くて24時間程度は水に浸けます。完全に吸水すると、浸け水に泡がでます。

・大豆が柔らかくなっていない
ちょっと大豆が硬めに炊き上がったけどお味噌を仕込みました。というお味噌が美味しかったという話を聞いたことがありません。でも、大豆が柔らかすぎて美味しくなかったという話もまた聞いたことがないように思います。大豆は沸騰を維持して炊きましょう。黒豆の様にコトコト炊くのではなく、きっちり沸点を維持しながら十分に柔らかくなるまで根気よく炊く(蒸す)ことが大事ですよ。

・米麹がいまいち
いまいちな米麹とは「白い菌に覆われていなくて、米の色がほとんどのもの」「ぼやーっとしていて茶色がかったいるもの」「にぎってみて団子になったりすぐに潰れるもの」です。米麹の性格は色々とあってよいのですが(旨味系、甘味系など)、とにかく、お米の表面全体に麹菌が繁殖していて(白い)、冴えた色であることが大切です。硬くても構わないです。ぼやーっとしたり握って団子になるものには、蒸米自体を失敗していたり、冷凍米麹を解凍して結露が麹につきすぎて雑菌が繁殖しまくっているものもあります。大豆を糀が分解して美味しくなるわけなので、糀の品質はお味噌の出来に直結します。

・塩の量をきっちり測っていない
塩が少なすぎると腐敗し、多すぎると発酵が進みません。塩の種類にこだわる前に、塩の量をちゃんと測りましょう。

・加える水の量をいれすぎる
味噌に加える水のことを「種水」とも言います。発酵の呼び水的存在です。この塩梅の説明は難しいです。「大豆の煮汁がもったいないからいっぱい入れる」、これがNG。煮汁なり水なり、お味噌に入れると塩分濃度が下がりますから、よくよく配慮していれましょう。逆に、水を入れなさすぎて味噌の水分量が少ないと味噌が硬くて発酵が遅くなり、1年で美味しくならないことがあり例えば3年くらい寝かせれば美味しくなることが多いです。でも、1年で美味しいお味噌にするには「適度に水を加えたほうが美味しく仕上がります」その塩梅は、上に挙げた私のnoteをご覧ください。(また宣伝かいな)

・カビの防止を何もしない
酒粕、辛子、重石、、、何らかの方法でカビがくるのを防ぎましょう。

・仕込んでずっと冷蔵庫に入れている
極端に低温で発酵させるとタンパク質分解酵素が働きにくいので、旨味が出てこないです。逆に直射日光などあたる温度が高すぎるところもよくありません。夏は30度超えるのはOKですが、50度(直射日光)にはならない様にしましょう。

・そもそも容器が割れている
容器が割れていたりすると、そこから水分が漏れ出し、お味噌の発酵に必要な水分量が維持できないことがあります。使う前によく見ましょう。他、ホーローなど錆びているものも避けましょう。

以上が、私が考える「味噌作りを失敗する方法」です。避けているのはこれくらいなものですが、こういうことを一つ一つ丁寧に避けておくことが「毎年そこそこ美味しいお味噌ができる」ためには必ず必要です。ぜひ皆さん、お味噌作りにチャレンジするときは陥りがちな「大成功する方法」(例えば最高の材料を選ぶ、など)ばかり追い求めず、足元を固める。つまり「失敗を避けること」を大切にしてみてください。検討を祈ります!

【伝える人】 ハッピー太郎 / 池島幸太郎

酒蔵の蔵人12年の経験を活かして独立。麹をメインとした発酵食品工房を滋賀県彦根市で開業。https://happytaro.jp/

糀・味噌製造をメインとして鮒寿司なども製作。手前味噌の会では痒い所に手が届く解説で好評。発酵のコツを言葉にすること、発酵研究の文献探索、発酵職人探訪が好き。2021年12月に長浜市「湖のスコーレ」へ移転して、どぶろく醸造の免許をついに取得し、醸造を開始している。