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醗酵裏話「鮒寿司を漬ける時期がやってきた」①

醗酵裏話「鮒寿司を漬ける時期がやってきた」①

梅小路醗酵所でアドバイザーを務めております、ハッピー太郎こと池島幸太郎です。

今回の醗酵裏話は、滋賀の発酵といえば「鮒寿司!」についてです。大丈夫、嫌いな人も文章から香りはしませんから、最後まで読んでいってくださいね。

7月に入ると滋賀県の醗酵人たちがそわそわし始めます。そう、「鮒寿司」を漬ける時期に入るからです。毎日のように誰かの「鮒寿司を漬けました!」報告をSNSで見たりします。店頭に立っていると「鮒寿司漬けてきました!」と嬉しそうに話してくれます。そしてたまにですが、鮒の予約をし忘れて今年は手に入らないなんて焦るような話もちらほら聞いたりします。

鮒寿司飯漬けの準備


鮒の準備、お米の準備、桶の準備、そして何より、、人の手間の準備。漬けるのは一桶だとしても丸一日かかる仕事になりますから、漬ける量によってはこの夏中ずっと漬けている業者もあったりするわけで、滋賀の夏はいわば「鮒寿司漬け祭り」になります。鮒寿司の漬ける量もかつてほど多くはないはずではありますが、それでも夏に一斉にとりかかるのですから、滋賀を俯瞰的に見ることができたら、夏の間、今日も明日も明後日も、誰かが鮒を触っているようなイメージです。スゴイですね 笑

さて。鮒寿司は7月〜9月、基本的には暑い時に本漬けするのが現在の定石です。3〜4月に獲った鮒(主に琵琶湖固有種のニゴロブナ)を内臓をとってから塩漬けしておいた塩切り鮒を、暑い夏に水で洗ってご飯と一緒に桶に漬け込みます。そして重石をして半年くらい常温で発酵させます。目標としては正月に桶を開けて鮒寿司を取り出してハレの日のご馳走として出すのです。

卵の部分がご馳走とされる。

簡単に流れを記しましたが、一般的には「鮒寿司を作ること」は発酵仕事の中でもハードルが高いのというイメージがあるようです。味噌作りやパン作りなどと比べて及び腰になる方が多いのではないでしょうか。それは以下の理由があります。

1、魚や肉などの「動物性の発酵」が生活の中に少なくイメージが湧かない
2、高価なので失敗した時のダメージが大きい

1は、甘酒、お味噌、漬物、パン作りなどに関しては周囲に同好の人はたくさんいらっしゃると思いますが、そもそも鮒寿司を作っている人が少なくなっていますし、
「魚醤(or へしこ)作ってる」「生ハム作ってる」「ソムムー(豚肉のなれずし)作れる」という人も割合としてかなり少ないと思います。周りにいなければ質問もできず、作業イメージも湧きにくくなります。すると、一歩踏み出しにくいです。

2は、かつて動物性タンパク質を自分で獲ってくることが当たり前だった時代がありました。だからこそ生活の中に魚や肉の発酵が根付いたのだと思いますが、今はほとんどの方が魚や肉は買うものです。大豆や米、麦と比べて高価ですし、特に鮒寿司に使うような天然ニゴロブナのメス(卵持ち)になりますと鮮魚換算で1kg 5000円近くすることもあります。これは初めてトライする人の気持ちになりますと、ちょっと無理ですよねえ。失敗してしまった時のショックを考えてしまいます。

そんなみなさんに、お勧めの方法があります
プロに習える講習会に参加する」のです。プロだから、ある一定の味は保証してくれます。
今季の募集は終わっているかもしれませんが、もしかして、、、もございます。また、漁師さんが個人的に開催する鮒ずし作り会もあったりしますので、アンテナを張り巡らせてみてください。

琵琶湖周辺の漁協がやっている「鮒寿司体験教室」
ふなずし飯漬け講習会一覧
何を隠そう私も初めて漬けたのはその教室だったんです。
沖島という琵琶湖に浮かぶ有人島の沖島漁協と琵琶湖汽船が共同主催する「鮒ずし作り体験クルーズ」でした。 (今年は募集終了)

持ち物・桶なども丁寧に教えてくれます。私の時は、大津港から船に乗って、まず鮒ずしに関するビデオを見て予習してから沖島に上陸。すでに会場はきっちり準備してあって、丁寧に指導してくれます。午前中に鮒を15〜20匹ほど一生懸命磨き洗いをして、疲れたなーと思ったら、琵琶湖の幸満載の豪華お弁当を食べて一息つきます。その時も沖島の方たちが、私たちの洗った鮒を物干しに吊って水切りをしたり、飯漬けに使うご飯を炊いて冷ましてくれてます。そして午後、また丁寧に指導してくれてご飯と鮒を桶に漬け込んで、終了。大事な内蓋用の縄の編み方、重石の仕方も教えてくれて、あとは桶を自宅に持って変えるもよし、沖島で預かってもくれます。沖島で預かってくれた鮒寿司は出来上がったら真空にして発送してくれたりします。

ここで漬けた鮒寿司は絶対に美味しくなる方法(あまり臭くならない方法)を教えてくれるので、安心です。発酵仕事は段取りが大変で、その段取りを全て取り仕切ってくれます。一人で行くのもよし、友達4人くらいで行くのもよし。わいわい話しながらあっという間に作業が終わるのが発酵仕事を楽しい思い出とする要点かもしれません。

もし鮒寿司を漬けたいなと思っている人がいたら、プロに習える講習会からぜひ参加してみてください。その場にはもう何十年も漬けている猛者がたくさんいるわけですから、質問にも「その人流」の答えをもらったり、「いやいや私は、、、、」なんて発酵談義が始まることも。もし美味しい鮒寿司が出来上がったら、絶対に鮒寿司のイメージが変わります。そして「私も自分で漬けてみたい!」となる。そして自分流の漬け方を編み出す、、、、、。

美味しくなりますように。


私もそんな一人です。そして滋賀にはもうさまざまな鮒寿司の漬け方あります。ご存じない方もいらっしゃると思いますが、滋賀のなれずしは「鮒」だけでもありません。次回は、滋賀のなれずしの多様性、そんな話をしたいと思います。

【伝える人】 ハッピー太郎 / 池島幸太郎

酒蔵の蔵人12年の経験を活かして独立。2017年に麹をメインとした発酵食品工房を滋賀県彦根市で開業。糀・味噌製造をメインとして鮒寿司なども製作。手前味噌の会では痒い所に手が届く解説で好評。発酵のコツを言葉にすること、発酵研究の文献探索、発酵職人探訪が好き。

2021年12月に長浜市「湖のスコーレ」へ完全移転して、どぶろく醸造の免許を取得し醸造を開始。中でも副原料入り低アルコールどぶろく「something happy」シリーズは今までにない体験の飲み物として注目を集めている。https://happytaro.jp/

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