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醗酵裏話「鮒寿司を漬ける時期がやってきた」②

醗酵裏話「鮒寿司を漬ける時期がやってきた」②

梅小路醗酵所でアドバイザーを務めております、ハッピー太郎こと池島幸太郎です。

前回は、夏に鮒寿司を漬けるという話題、鮒寿司を漬けてみたい方へのアドバイスなどを申し上げましたが、今回はその鮒寿司の多様性についてお話ししたいと思います。

鮒寿司万流

鮒寿司の漬け方、実は色々あります。この多様性・地域性こそが実は鮒寿司の面白いところなのです。
そもそもこの暑い夏に漬けるという季節に関しては現在の鮒寿司において常識なのですが、昔からそうだったかというと異議もあります。琵琶湖博物館の橋本道範先生を中心に、昔は冬にも漬けていたのではないかという研究があり、今も探究されています。(参照:「再考ふなずしの歴史」)そして夏と言っても微妙に漬ける時期をずらす人もいます。

それらの多様なあり方を箇条書きにしましょう。私の頭の中を鮒寿司漬け知識棚を整理してみます。しかし私が全てを知っているわけではありません。

*漬ける時期:土用前、真夏、残暑、秋口
*桶:木桶、プラスチック桶、20リットル〜100リットル
*嫌気性の方法:水張り、ビニール袋、中蓋用の縄がナイロンか藁か古い縄か新しい縄か
*鮒:雄か雌か、天然か養殖か、鮒の種類(ニゴロ、源五郎など)、塩切り業者の違い
*お米:白米か玄米か、品種、生産者
*ご飯:硬めに炊く、柔らかめに炊く、塩入れる入れない、その日中に使う、翌日まで冷ましておく
*ご飯の量:たっぷり、少なめ
*鮒の洗い方:しっかりごしごし青光りするまで磨く、軽く塩を落とす程度、エラを磨くか、目を取るか、口の中の粘膜を取るか、お腹の中の内臓や塩をしっかり取るか
*鮒の洗う水:水道水、地下水、川の水、琵琶湖
*洗った鮒の干し方:ザルで軽く、新聞紙に包む、干物干し、洗濯物ハンガーでぶらさげる、風をあてるか、短い時間か翌日まで干すか
*手水:真水、酢、日本酒(生、火入)、焼酎
*副原料:糀、山椒、他
*重石:軽め重め、途中で重さをどう変えるか
*桶を置く場所:日が当たるか、屋内か、温度
*漬ける期間:数ヶ月〜数年〜


いやああ、、、、ここまで書いただけでも、無限の漬け方があります。では、どの方法が最も優れているとか、あるのでしょうか?

多様性こそ鮒寿司の素晴らしさ

鮒寿司は卵入りが人気

最近、琵琶湖の西側のとある老舗鮒寿司屋さんの大将とお話ししたのですが、「私は乳酸発酵が持つ酸を大切に育てていて、それを感じてもらいたいから手水に真水を使います。しかし自分のこだわりは自分を表現するためであり、人より優れているということを主張するわけではないということを大切にしています。」とおっしゃられていました。また、地元長浜市のとある老舗料理屋さんも「匂いの強いもの、食べやすいもの、酸味が強いもの、色々とありますが、漬ける人が育った環境や先祖代々の漬け方など、ストーリーがそれぞれあるだけで、どれが一番優れているというわけでありません」

プロとして漬けている方達の鮒寿司はそれなりにファンがついているので、ひょっとしたらファンから「あなたの鮒寿司が一番だ」と言われることもあるのかもしれませんが、プロは他の方の漬け方を否定していると取られかねない言葉は慎まれておられます。それは鮒寿司の素晴らしさは多様性や地域性にあることを心から実感されていて、その豊かさがあるからこそ自身の鮒寿司の居場所があるとお考えなのですね。

さて。鮒寿司というのは鮒をご飯で漬け込んだ「なれずし」という発酵食品カテゴリーです。実はびわ湖の周辺には鮒以外にも多様ななれずしが存在していて、びわ湖近辺で取れる魚はなんでもなれずしにしてしまっていると言っていいくらい、種類があります。ハス、小鮎、なまず、ウグイ、どじょう、、、、


鮒寿司にとどまらぬびわ湖の「なれずし」

丘峰喫茶店さんのびわますのこけらずし、びわますの糀漬け、小鮎のなれずし、小鮎のへしこ

先日、京都の老舗お寿司屋さんたちの若旦那たちのご要望で「琵琶湖のなれずし講習会」を開催しました。この開催に際してご協力いただいたのが、丘峰喫茶店の堀江昌史(まさみ)さん。もともと他県のご出身で、魚など触ったこともないような方だったそうですが、今や湖魚のなれずし研究実践派としては様々なバリエーションをお持ちの方です。丘峰喫茶店さんは現在カフェは休業中ですが、イベントなどでなれずしを販売したりしているそうです。https://www.instagram.com/kyuhokissaten/

彼女の特徴としてはその実験数の多さと、他県出身の人だからこその「現代人に受け入れられる味を求めて」という柔軟な考え方、そして漁師さんの実情をその取材力でよく把握していからこそ流通できないような素材もなれずしにして美味しく食べようと工夫しているところですね。
昌史さん「ふなずしも毎年3種類くらいつけてるかも。 去年は買った塩切りのフナ(丸)、大きすぎるフナ(3枚に卸して)、自分で釣ったフナです。同じ漬け方をしても不思議と味は違います。フナの香りは大きなフナが一番芳醇でした。」

講習会では、びわますのこけらずし、びわますの糀漬け、小鮎のなれずし、小鮎のへしこ、、、、様々な湖魚の発酵をご披露いただきましたが、皆驚いていました。海の魚のプロばかりですが、びわ湖の魚の実情を知ったり「鮒寿司だけと思っていたなれずしが実はこんなに多様な魚を多様な漬け方が存在するんだ」と鮮烈な印象だったようです。

さて、なれずし(鮒寿司)の話題はまだまだ続きます。

【伝える人】 ハッピー太郎 / 池島幸太郎

酒蔵の蔵人12年の経験を活かして独立。2017年に麹をメインとした発酵食品工房を滋賀県彦根市で開業。糀・味噌製造をメインとして鮒寿司なども製作。手前味噌の会では痒い所に手が届く解説で好評。発酵のコツを言葉にすること、発酵研究の文献探索、発酵職人探訪が好き。

2021年12月に長浜市「湖のスコーレ」へ完全移転して、どぶろく醸造の免許を取得し醸造を開始。中でも副原料入り低アルコールどぶろく「something happy」シリーズは今までにない体験の飲み物として注目を集めている。https://happytaro.jp/

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