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コラム記事

どぶろくと鮒寿司の共通点

どぶろくと鮒寿司の共通点

梅小路醗酵所でアドバイザーを務めております、ハッピー太郎こと池島幸太郎です。

鮒寿司の話題が続いたので、またかと思われるかもしれませんが、最近友人から言われた言葉でとても心に刺さったものがあり、そこから思考していきたいと思います。


「どぶろくと鮒寿司って、同じくらい警戒されてるでしょ?」

いや〜、刺さりました。必殺仕事人か?というくらい急所を刺されたかのような感覚。
私は2022年からどぶろくを醸造し、そして今はちょっと休止しておりますが鮒寿司も2017年から仕事にしている大切な商品です。どぶろくも鮒寿司も両方とも作って販売しているからこそよくわかる例えなのでした。

鮒寿司の場合

ハッピー太郎の鮒寿司

私はどぶろく醸造を始める前は、「糀・甘酒・味噌・漬物・鮒寿司」を製造販売する発酵屋として起業し、最初は知っていただくためにマルシェなどイベント出店しておりました。その時、誰にでも手に取ってもらいやすい商品は「味噌」で、一番味を心配された商品が「鮒寿司」でした。

味噌はどんな味噌でも一定の水準があれば、味噌汁にするのか、田楽に使うのか、調味料としてきかせるのか、漬け床にまぜるのか、、、たくさんの使い切る手段があります。味噌はあって困るものではありません。

しかし、鮒寿司は違いますね。鮒寿司が一般家庭の日常生活に溶け込んでいるかというと、そうでもないのが実情です。かつてテレビ番組で罰ゲームのような扱いを受けたりしたことももしかしたら影響しているのかもしれませんが、「変わっている食べ物」「嗜好品の最たるもの」というイメージがあります、もし購入して「臭かったら」「変な味だったら」「口に合わなかったら」どうしよう?という不安になりやすい食品で、味噌のように幅広い使い方が知られているわけではないわけで、捨てるしかない。しかも、結構高級品です。

もしかしたら「負ける」リスクが高いものにお客様が手を出していただくためには、作り手たる私が相当信用される必要があります。そのブランディングの構築にも時間がかかりました。でも、一番の特効薬は口コミだったような気がします。この人の鮒寿司は全然違う、というお客さんの口コミが着実な広がりを産みました。そんなファンを掴んだ商品ですが、現在どぶろく醸造に集中するために休止中で、私もちょっと残念です。ぜひ鮒寿司を発酵させる工房を設立して復活させることが目標です。
(ハッピーどぶろくと鮒寿司の相性は最強なのですよ。もしよかったら試してみてくださいね。旨味が絡み合います。)

どぶろくの場合

ハッピー太郎醸造所の副原料入りどぶろく「something happy」

さて、どぶろくの立ち位置は日本酒と比べるのではなく、ビールと比べてみるとよくわかります。先月、ハッピー太郎醸造所が位置する長浜市で地ビール醸造を長く続けておられる「長濱浪漫ビール」さんの主催でイベント「長濱フェス」が行われました。長濱浪漫ビールはとてもクオリティの高いビールで、新作もあり、それを目当てにたくさんのお客様がご来場になられました。
そこにハッピー太郎醸造所も「どぶろく」で出店したのですが、ビールを目当てに来られたお客様の「どぶろく」の文字を見る光景が、、、、遠巻きに見てる、、、という感じなのです。明らかに警戒されている。複数人のお客様は、ブースから2メートル離れてこそこそ話してる。
「どぶろく?」「どぶろくってどんなの?飲んだことある?」そんな内容だろうなあという表情を読み取ります。隣の長濱浪漫ビールでは見ることがない光景です。ビールというだけで安心感があり、とりあえず飲んでみたらいいじゃないかというハードルの低さ。一方どぶろくはそもそも「どぶろくって何?」という質問が共感を呼ぶくらい、ハードルが高い飲み物であるということを認識させられた瞬間でした。

そんな時です。

長濱浪漫ビールの関係者の方がお金を払ってどぶろくを飲んでいただいた瞬間、目を見開いて「これはすごい!びっくりしました!感動しました!どぶろくの概念を超えている!」と、まずは他の関係者にも飲ませ「バチくそ美味いな!」という言葉をいただいたのでした。すると、、、、
あちこちからお客さんがやってきて私も私もとご注文いただき、「本当だ、これは美味しい!」と輪が広がったのでした。

自分が美味しいと思っているビールの関係者が美味しいというどぶろくなら大丈夫だ、お金を払う価値があるに違いない、そう思っていただいたのは明らかでした。

市民権をどう得ていくのか。

2022年下北沢でのクラフトサケの祭典「猩猩宴」

国民食という言葉があります。その国特有の、広く親しまれている食材や料理。
日本の国民食といえば、「寿司」「味噌汁」「カレー」「おにぎり」「うどん」「ラーメン」「焼肉」などなど。これらは、味の好みはあれど、多くの人に親しまれています。たくさんの料理が並ぶ「ビュッフェ」「バイキング」ではこれらが置いてあることが多いですよね。並べていても不思議な顔をされないというか、ロスが出ない可能性のほうが高い。

別の言い方をすれば、「今日の昼ごはんはカレーだよ」と言われて、多くの人は「やったー」と素直に嬉しくなるのではないでしょうか。

それでは、食の中でも、飲料となるとどうでしょう。日本の国民的飲料。これは「日本茶」で間違いなさそうですが、「コーヒー」もギリギリ入るでしょうか。これらは実際に自分で淹れるというよりもペットボトルのお茶や缶コーヒーのほうが「国民的」と言えるでしょう。
そしてアルコール飲料はいかがでしょう。国民的アルコール飲料。これは「ビール」(ビール風のもの)で間違いなさそうです。そして缶のハイボールやレモンサワーがあれだけ売り場の棚を占めているのを見ると、実はビールと合わせてハイボールやレモンサワーも今や国民的アルコール飲料という時代が来ているのかもしれません。

さて。
国民食の中でも代表的存在「カレー」
国民的飲料「ペットボトルのお茶」
国民的アルコール飲料「ビール」
これらは最初から「国民的」だったのでしょうか?いやいや、そうではないでしょう。
「カレーなんてあんな茶色でどろどろして変な匂いがして辛いものなんて気持ち悪い」
「ペットボトルのお茶なんて美味しくないしお茶にお金を出すわけがない」
「ビールなんて苦いものは外国人の飲むものだ」
おそらくはこういう感想だったのではないでしょうか。
そして、おそらくはビールが日本に入ってくる前、そしてお酒を自由に作ることができた昔々は、「どぶろく」が国民的アルコール飲料だった時代もあるかもしれません。

カレーも、ペットボトルのお茶も、ビールも、きっと努力を重ねてきた結果、たくさんの応援を得て、今の立ち位置なのだと思います。その時代や環境にあった味わいに落とし込む、惚れ込んで伝える努力、いろんな人を巻き込む発信。どれもが必要で時間がかかることです。

ハッピー太郎醸造所は「どぶろくは密造酒で品質が不安定で当たり外れが大きい」というイメージを一瞬で払拭するような感動的な爽やかさかつ現代人の食卓に居場所があるように設計したどぶろくを醸しておりますが、更新し続ける日本の現代料理(家庭でも飲食店でも)への感度を常に上げておいてチューニングしていかねばなりません。そしてそのどぶろくに惚れ込んでいただける方も必要です(酒販店さんやファン)。そして「美味しいものをつくってさえいれば」なんて考えはなく、どぶろくに触れる機会を探し求め、その豊かさを自分とは違った観点からも伝えていただける方を常に探し動き続けることが大切でしょう。

結局は近道はない。やり続けるということ。
そして今私が醸し続けらているのは、それは周りが伝えてくださっているからこそ。その方達に感謝し歩みを止めないことを決意するのでした。本日10月1日は日本酒の日。ぜひお米の酒で乾杯してほしいものです!

【伝える人】 ハッピー太郎 / 池島幸太郎

酒蔵の蔵人12年の経験を活かして独立。2017年に麹をメインとした発酵食品工房を滋賀県彦根市で開業。糀・味噌製造をメインとして鮒寿司なども製作。手前味噌の会では痒い所に手が届く解説で好評。発酵のコツを言葉にすること、発酵研究の文献探索、発酵職人探訪が好き。

2021年12月に長浜市「湖のスコーレ」へ完全移転して、どぶろく醸造の免許を取得し醸造を開始。中でも副原料入り低アルコールどぶろく「something happy」シリーズは今までにない体験の飲み物として注目を集めている。https://happytaro.jp/

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