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発酵裏話「白味噌をめぐる妄想。」

発酵裏話「白味噌をめぐる妄想。」

梅小路醗酵所でアドバイザーを務めております、ハッピー太郎こと池島幸太郎です。

年末になり、お雑煮のことが頭を離れませんね(私だけではないでしょう)。皆様のお雑煮は何でしょうか。これは家庭ごとのお決まりがあって具材は千差万別、よく議論になりますのは「おすまし派」「白味噌派」ではないでしょうか。関西では。

梅小路醗酵所のある京都は、そりゃあもう、お雑煮といえば白味噌で、白味噌でなかったらお雑煮ではない、というくらいの白味噌文化。味噌屋の私は「京都=白味噌」、この2つは同義語に近い。

京都の白味噌(及びそれに倣ったもの)は、全国の様々な白味噌と比べて大変甘みがあり、豆の味は軽い。豆の皮を機械でむいて(脱皮機)仕込むゆえ、特に色が白いのです。そして塩分は極めて控えめ(4%前後)。その味わいから、京都の華やかな公家文化をイメージさせるのに十分で、京都の食文化の象徴的な存在だと思います。普通の色の濃いお味噌はそもそも常温保存できる保存食であり、豆のタンパク質分解が進んでアミノ酸など身体を構成する栄養がたっぷりですが、温度をかけて3日程度で発酵させる超減塩の白味噌は、常温保存は難しく、栄養のためというよりも身体に良い甘味料といったイメージです。

なぜそこまで甘み優先の白味噌文化が発達したのか、やはり京都という都において経済が発達し、食料の選択肢が豊富であったためと私は想像します。比較的、地方にとっての味噌というのは、たんぱく質を分解した状態で保存できる、健康を保つにはなくてはならないものでした。

さて、話は展開して、京都の白味噌文化とは違った自由な白味噌文化が全国にもあるのですが、私が住む滋賀県にも特殊な白味噌文化があります。それは、びわ湖の有人島、沖島に残る文化です。

琵琶湖に浮かぶ沖島

実は沖島では、まだ暖かい時期に糀多めでお味噌を仕込み、1週間で食べ始める文化があるそうです。1週間??びっくりしますよね。
常温1週間ではまだ色はつかず、白味噌状態。それを味噌汁にしたり、酢味噌に使ったりするそうです。そして、食べながらお味噌は熟成していき、お味噌がなくなったらまた仕込むということです。ちょっと他で聞いたことがない話。でもよく考えたら、1年分たくさんお味噌を仕込まなくても、なくなったらまた仕込んで1週間で食べ始めたら良い、なんて気楽でいいですね。
ここからは私の妄想ですが、さほど熟成したお味噌を食べないこの沖島の味噌文化は、島の周りで魚が豊富に取れすぎるくらい取れたからではないでしょうか。タンパク源は魚で取れるので、栄養というよりも調味料としての傾向が、沖島の味噌文化にはあったのではないでしょうか。

沖島では「ジョキ」という料理があります。それは、鮮度の良い寒鮒の皮ごと細かく切る時にでる音を模した料理名で、皮付き刺身を酢味噌和えにしたお料理ですが、まさに「味噌は調味料である」という料理。色の淡い白味噌が合います。これが本当に美味しいんですよ。

ジョキジョキ切るから「ジョキ」

ここからまた私の妄想が広がります。
実は、元々の白味噌というのは、今のように熱をかけて贅沢に甘くした白味噌ではなくて、常温で数週間寝かせて馴染んだ頃に色のついていない若い味噌として食べるものだったのではないか。

実は、京都の西陣にちょっとヒントが。「加藤みそ」という小さな家族経営の白味噌屋さんがあります。こちらの白味噌は、豆の皮をむく脱皮気という機械はなく、大豆を煮ている時にゆでこぼす程度。そして、仕込みは熱く仕込んで、結果糖化が進みますが、熱を後からかけるのではなく、冬季は1ヶ月ほど室温で熟成、夏場は10日ほどの熟成で出来上がりとのこと。おそらくこういう製法は、京都では加藤みそさんだけかもしれません。

加藤みそさんの白味噌は、少し固めてに仕込んでいて、旨味が豊富。今のきちんと熱をかけて甘くする京都の白味噌は甘くて口当たり軽くて、それはそれで素晴らしいのですが、加藤さんの滋味溢れる白味噌も、なかなか美味しいものです。

以上のことを踏まえて考えて、私も白味噌を自作するようになりました。びわ湖の沖島の白味噌、つまり常温熟成白味噌の、ハッピー太郎バージョンです。沖島に比べて塩分は控えます。そして少し温度をかけます。といっても、50度ではなく、室温30度の糀室で4〜5日寝かせる。そして糀と豆が馴染んできたなというところで、荒くミキサーにかけて冷蔵庫保存。そこから数週間かけて美味しくなっていきます。それが、ハッピー太郎流白味噌。コクがじわ〜っとでた、そのまま食べても手応えのある、お料理に使える白味噌です。この作り方もいずれワークショップで教えたいと思います。

【伝える人】 ハッピー太郎 / 池島幸太郎

酒蔵の蔵人12年の経験を活かして独立。麹をメインとした発酵食品工房を滋賀県彦根市で開業。
糀・味噌製造をメインとして鮒寿司なども製作。手前味噌の会では痒い所に手が届く解説で好評。発酵のコツを言葉にすること、発酵研究の文献探索、発酵職人探訪が好きです。2021年12月に長浜市「湖のスコーレ」へ移転。どぶろく醸造の免許申請中。https://happytaro.jp/