COLUMN
コラム記事
梅小路醗酵所でアドバイザーを務めております、ハッピー太郎こと池島幸太郎です。
どぶろくを醸造している小さなブルワリーとして初めての師走を迎えます。12月はお酒が一番売れる時だと言われておりますが、さて皆さんはどこでお酒を楽しまれるでしょうか。
大きく二通りにわけてみます。
*飲食店さん
*それ以外(自宅など)
の二通りです。なぜこの二通りかというと、
「お酒が開封された状態で販売する」か「お酒が封された状態で販売する」か
という、「封」の状態によって、販売側に求められる条件が違うのです。
飲食店さんでは「レモンサワーください」「純米酒1合を冷酒で」などと注文しますね。その場合はグラスや徳利などの酒器に入って出てきます。もしくは、「瓶ビール」。これは栓を開けて、コップと共に提供されますね。
これらが「お酒が開封された状態(口をつけたら飲める状態)で販売する」ということです。
飲食店さん以外の自宅などで飲むとすれば、まずはどこかお酒が販売されているところで購入することになります。購入場所は選択肢がたくさんある今日のこの頃です。酒屋さん、食料品店、スーパー、コンビニ、通販。皆さんが利用されるのは概ねこのどれかでしょうか。
このときは決してお酒の封が開いている状態はないはずですよね。開いていたらびっくりです。密封状態で私たちは購入することになります。
さて。この二通り「飲食店」と「それ以外」ではお酒の販売免許が別のものであることはご存じでしょうか。そしてその免許している行政機関も別であることをご存じでしょうか。
飲食店でお酒を提供するということは、保健所が「飲食店営業許可」を与えれば可能になります。
では、密封されているお酒を購入可能な販売店というのは「酒類小売販売業」の免許が必要で、店が大きい小さい関係ありません。そしてこの免許を与えるのは税務署です。
つまり、
「お酒を開封して販売する」のは保健所の管轄であり
「お酒を未開封のまま販売する」のは税務署の管轄である
ということです。
特に「飲食店の営業許可のみで、未開封のお酒を販売する」ことは認められておりません。
飲食店さんで「それ、未開封の瓶ごと買って持って帰って良い?」と聞いてみてください。普通は断られるはずです。
さて、今回メインの話題は税務署の免許による「酒類小売販売免許」についてです。
この小売免許については2003年の自由化以来、多種多様な業態が参入し、あるとあらゆるお店でお酒を購入できるようになりました。現在はスーパーで大手のビールを買い、コンビニでレモンサワーを買い、街の酒屋でこだわりの地酒やワインを買う。なんて使い分けもできるとっても選択肢の多い時代となっています。多くの皆さんにとってはもはや当たり前なのかもしれませんが、ほんの20年前はそれが画期的だったのですよ。私は蔵人になりたてのころだったので、酒蔵内では大騒ぎだったように思います。
「酒類小売販売免許」は「店頭で酒類を販売できる免許」です。お客さんへの直接販売のみ、しかも申請した「お店とその管理者」に対しての免許なので、どこかイベントで「屋台」などを設けて販売するには「期限付き小売免許」を申請しなければなりません。そしてインターネットなどの通信販売を行うには別の免許「通信販売酒類小売業免許」が必要です。
そしてこれは注意ですが「酒屋」から「酒屋」への販売は「酒類卸売業免許」であり、また別の免許なのです。いわゆる「横流し」は法律的にも制限されています。
そして、酒類関係の免許は誰にでも免許されるわけではありません。中でも、赤字続きの経営では免許されません。平たく言うと、3年間は黒字で、きちんと納税証明されることが必要です。つまり酒類の免許が税務署管轄なので「税金(酒税)を納めることが可能である者に限り免許する」ということになります。
いやあ、自由化されたとはいえ、一般人にはとってもわかりづらく、実は不自由な感じがしますよね。この「自由化」と「不自由」の間で、知恵を絞って生き残ってきた人の中には「酒類の専門店化・エキスパート化」された人たちがいました。そしてさらに言えばお酒そのものを売っているのではなく、お酒にまつわる豊かさを伝えていくことを仕事にするというところまで進化しています。
実は、お酒文化への熱い気持ちがある人たちがいるからこそ、私たち小さな小さなブルワリーは安心してお酒を醸すことができるのです。それを次回説明します。
【伝える人】 ハッピー太郎 / 池島幸太郎
酒蔵の蔵人12年の経験を活かして独立。麹をメインとした発酵食品工房を滋賀県彦根市で開業。https://happytaro.jp/
糀・味噌製造をメインとして鮒寿司なども製作。手前味噌の会では痒い所に手が届く解説で好評。発酵のコツを言葉にすること、発酵研究の文献探索、発酵職人探訪が好き。2021年12月に長浜市「湖のスコーレ」へ移転して、どぶろく醸造の免許をついに取得し、醸造を開始している。