COLUMN
コラム記事
梅小路醗酵所でアドバイザーを務めております、ハッピー太郎こと池島幸太郎です。
ハッピー太郎醸造所の仕事の一つに「手前味噌の会」を主催しております。
要するに、お味噌をみんなで仕込んで持って帰って「我が家の手前味噌」にしてもらおうという会です。2017年の冬から始めて6年目。今季はどぶろく醸造との兼ね合いで、回数を大幅に少なくせざるをえませんでしたが、全7回、満員御礼で無事終了することができました。
どんな風に準備するか、ここで裏話させていただきますね。もしかして、これからお味噌教室をされる方への、段取りのアドバイス的になるかもしれません。(麹を作らない人は4日目からどうぞ)
手前味噌の会の準備(時系列)
1日目 米麹のための米洗い
醸造所内で地下水をふんだんに使ってお米を綺麗に洗い、浸漬します。
2日目 米蒸し、種付け
お米を蒸し、所定の温度になったら種麹(麹菌)をふりかけてよくよく混ぜます。全てのお米に種をつけるべくほぐしてほぐして、、、、。そして冷めすぎないうちに暖かい麹室へ運び入れ、囲っておきます。正午くらいに作業終了。
3日目 麹の守り
朝8時ごろ麹菌がよく成長していたらバラバラに解して麹箱に盛り、成長を見守ります。13時ごろ仲仕事、18時ごろ仕舞仕事と進め、最高品温に導きます。
4日目 大豆洗い、出麹
朝一番に大豆を洗います。ここで私は冷たい水ではなくて25度くらいのぬるい水を使います。冷たい水ですと大豆の中心まで水を吸わせるのに時間がかかり、蒸し始めるまでに間に合わない可能性があるからです。正午ごろ麹を食べてみて完熟に仕上がっていたら出来上がり、バラバラに解したあと麹室から出し冷ましておきます。
5日目 長い1日(大豆蒸し〜手前味噌の会)
①午前0時。約16時間は水を吸わせた大豆をザルにあげ、蒸し器にセット。着火します。強火。沸騰に30分、蒸気が抜けるのに30分、くらいでしょうか。蒸気が抜けたら蒸気が抜け続ける程度に火を弱めます。時々蒸気があがっているのを確認します。午前4時ごろ、お湯が少なくなってくるので足し、再び蒸気が上がるのを確認。見守ります。
②午前7時までには十分蒸し上がりますので、ほくほくに蒸せた大豆を熱いうちに業務用のミンサーで潰します。参加者それぞれの必要量を計量して保温箱にいれておきます。約1時間もあれば全て潰せます。潰し終えたら他の麹仕事やどぶろくの世話をします。
③午前10時ごろ手前味噌の会の道具を準備します。タライ、ボウル、手袋、ペーパータオル、、、、色々と準備物があり昔はよく忘れ物をして焦ったものですが、今は会場がすぐ近くなので心配がありません笑 ちょうどお手伝いさんがやってくる時間なので洗い物をお願いします。(これが本当に助かるのです。)
④道具を会場に運び入れたら計量開始です。タライをアルコール消毒し、タライの中に麹とお塩を計量します。参加者ごと希望味噌量が違うので間違えないように責任を持って計量します。8〜16組くらいの参加者、4kg〜多い人で20kg仕込まれます。
⑤午前11時ごろ店がオープンです。準備を進めながら一般のお客さまの接客もします。12時ごろになったらわらわら参加者がご来場されますので、先にお会計を済ませておきます。お子様連れの場合、大概遅刻されます。それは織り込み済みです。絶対に焦らせないように配慮します。
⑥午後13時。手前味噌の会が始まります。お子様連れ、ベテランさん、若いカップル、さまざまな方がお越しになられます。とにかく笑って元気に作ってもらうように務めます。材料の説明、蒸し大豆の味見、麹の塩切り、そして潰した大豆を投入して混ぜ、捏ねます。捏ね方を実演。水分調整の煮汁はあらかじめ必要量を測っておき、タイミングよくそれぞれの桶に投入しにいきます。入れ忘れがないよう、それぞれ参加者の気分で入れなかったりしないように、責任持って入れにいきます。美味しいお味噌作りのために水分調整はとても大事なのです。
よく混ざっているか全ての参加者を回り、柔らかさ加減を確認。桶に詰めて行ってもらいます。詰め方も実演。そして最後の平らに慣らし方も実演。その後「一番大切なこと」として、容器についた汚れを綺麗にしていただきます。この綺麗さ加減は「ハッピー太郎チェック」を入れます。本当に綺麗になっているか、私がOKを出します。OKが出たら、カビ防止の酒粕か辛子を置いてもらいます。そして密封。密封指導もいたします。
⑦お味噌が出来上がり。質問を受け付けて、解散です。午後14時半ごろまでには全員出来上がります。
⑧後片付けに入ります。ここでもお手伝いさんが大活躍。私は参加者の方が「麹が欲しい」などの接客に回ります。あれやこれやと接客対応しながら後片付けをして、17時ごろには洗い物も終了。長い1日が終わります。
大事にしていること
手前味噌の会当日5日目がかなり大変なのですが、他の麹やもろみの仕事、お店の一般客の接客をしなければもっと楽でしょうし、普通の蒸し器ではなく圧力鍋ならもっと早く仕事できるとは思います。
私が大事にしていることは、「糀の品質保証」「しっかり大豆を吸水し完全に蒸していること」「味噌が絶対に美味しくなること」「できる限りカビがこないように保証すること」は当然の仕事として、さらに言えば「一人一人が笑っていること」に配慮するということ、をとても大事にしています。鉄板のジョークを織り混ぜ、楽しくおしゃべりしながら味噌を仕込んで「お味噌作りは楽しい」という心象風景を記憶として留めていただき、それがより一層、手前味噌を豊かなものにすると心から信じるからです。私が年齢や仕事の変化で手前味噌の会が今のようにできなくなるときが来たとしても、きっと皆さんが自分でやっていくだろう日を思い浮かべて。
【伝える人】 ハッピー太郎 / 池島幸太郎
酒蔵の蔵人12年の経験を活かして独立。2017年に麹をメインとした発酵食品工房を滋賀県彦根市で開業。糀・味噌製造をメインとして鮒寿司なども製作。手前味噌の会では痒い所に手が届く解説で好評。発酵のコツを言葉にすること、発酵研究の文献探索、発酵職人探訪が好き。
2021年12月に長浜市「湖のスコーレ」へ完全移転して、どぶろく醸造の免許を取得し醸造を開始。中でも副原料入り低アルコールどぶろく「something happy」シリーズは今までにない体験の飲み物として注目を集めている。https://happytaro.jp/