COLUMN

コラム記事

生酛造りに初挑戦②

生酛造りに初挑戦②

梅小路醗酵所でアドバイザーを務めております、ハッピー太郎こと池島幸太郎です。

前回に引き続き「生酛造り」の挑戦のお話です。生酛が難しそう〜と言う話は前回したので、ぜひそちらを先にお読みください。

超短く要約すると、「無塩で乳酸発酵させた米ヨーグルトを作って雑菌を淘汰する技術的にも精神的にもハードルの高い技法」ということです。

今回ご指導をお願いした杜氏さんがこちら、「花垣」南部酒造場を卒業されてフリーになっていた日置大作氏。

お燗大好き日置さん!

百戦錬磨の日置大作杜氏に生酛造りのご指導をいただいたわけですが、しかし、日置杜氏をもってしても、初体験なのが、こちら。

これ、縦40センチ・直径40センチの40リットル寸胴なのですが、
めちゃくちゃ小さい。普通の酒蔵で使うことはまずありません。そして、仕込みのお米の量が米・米麹合わせて10kg。この小ささは、日置さんはご経験がないということでした。
小さいということは、どういうことかと言いますと。
「品温が変化しやすいので、安定した仕込みは出来にくい」ということです。これ、糀作りでも一緒なのですね。

一般の方にも稀に糀作りを自宅でされている方がおられまして、時折質問を受けるのですが、「500g、多くても1kgの糀を作るのが難しくて」というお話しです。私はいつもこう答えます。「私にも500gの糀をクオリティ高く仕上げるのは無理だと思います。なぜなら、品温がすぐ変わってしまうから。」

そうなのです。発酵の職人仕事は、扱う物量にある程度の大きさがあったほうが品温がコントロールしやすいし、失敗の可能性が減る、という面があります。もちろん大きすぎても大変ですが、小さすぎるのも大変なのです。

というわけで、そんなリスクがある仕事を、よく日置杜氏は引き受けてくれたなあ、、、、と感謝感謝なのです。後から思うと、絶対私1人ではできなかった。断言できます。

仕込みの前の日に来ていただいて、即興の打ち合わせ。

生酛というと、まず「摺り潰す」という工程が有名です。
通常の酒蔵では木製の「櫂」という道具で摺り潰すことが多いのですが、ハッピー太郎醸造所ではとても小さい仕込みのため通常の櫂は使えない。そしてそんな小さな「櫂」を特製で用意することもできず、ホームセンターにも売っているわけでもなく、どうしよう、、、、、??

多分、日置杜氏ならなんとかしてくれるに違いない!と完全に丸投げ。笑

そして日置杜氏からのアイディア。「長靴で潰そうよ」

ということで、新品の綺麗な長靴を履いて、仕込んだモノの上を足踏みすると言う方法で摺り潰すというか、踏み潰すことにしました。

この長靴で、踏み潰すのです。踏むのは私の担当。
そして、その横で鬼教官?の日置杜氏が鋭い眼差しで見守ります。

人によっては結構衝撃画像かもしれませんが、こんな感じでフミフミ歩きながら潰します。
寸胴に仕込んでは潰しづらいので、タライにわけてそれぞれ潰します。1回につき5分くらい踏みました。それを3ターン。
タライを二つに分けているので、10分歩くのを3ターン。合計30分歩いたことになります。
結構途中で「歩くの飽きるなー」と思うんですが、教官(日置杜氏)は歩くロボット(私)の気持ちはともかく「摺れてるかどうか」(+ストップウォッチをじっと)を見守っているので、サボるわけにはいきません。笑

最初は硬くて歩きづらいのですが、
1回歩いて、しばらく置いて、2回目歩いたら、麹の酵素が効いたりしてて麹自体が溶けていきます。だんだんモノが柔らかくなっていき、トロトロになってきます。
その「潰し具合」がまったくわからないので、日置さんの匙加減なのです。
3回目潰した時に、「よし、これで酛寄せだ」
複数のタライのモノを仕込み桶に入れていくことを「酛寄せ」と言うんですね。なんか、素敵な言葉ですね。

教官日置大作杜氏。
実はここでは詳細はあかせぬ「日置杜氏の塩梅」を毎日目撃することになります。
それが、「現場叩き上げの感覚。」決して教科書には縛られない、現場人の実践積み重ねのオーラがありました。

そして、、、、、いよいよダキ(湯たんぽ)を効かせていくわけですが、、、、その話はその③に続きます!

【伝える人】 ハッピー太郎 / 池島幸太郎

酒蔵の蔵人12年の経験を活かして独立。2017年に麹をメインとした発酵食品工房を滋賀県彦根市で開業。糀・味噌製造をメインとして鮒寿司なども製作。手前味噌の会では痒い所に手が届く解説で好評。発酵のコツを言葉にすること、発酵研究の文献探索、発酵職人探訪が好き。

2021年12月に長浜市「湖のスコーレ」へ完全移転して、どぶろく醸造の免許を取得し醸造を開始。中でも副原料入り低アルコールどぶろく「something happy」シリーズは今までにない体験の飲み物として注目を集めている。https://happytaro.jp/

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 12202021photo027web-1024x683-1.jpg