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コラム記事

手前味噌を繋いでいくということ。

手前味噌を繋いでいくということ。

梅小路醗酵所でアドバイザーを務めております、ハッピー太郎こと池島幸太郎です。

みなさん、手前味噌生活されていますか。
よく聞かれるのが「お味噌を仕込むのは冬が良いのですよね」というご相談です。
プロ的にはそんなこともなく、年中仕込むことができるのですが、やっぱり世間的にはお味噌を仕込みたくなるのは1月〜3月くらいまでのようです。
それは糀屋の需要が1月〜3月まで、糀の注文が殺到するので、明らかです。

人によっては10kgの糀をご注文される方もいたりして、「明日欲しいのです」という緊急の方もいたりして、私は製造計画に四苦八苦。世の中の糀屋さんは稼ぎどきなのでしょう。

私はかつて講師として中学生に聞いたことがあります。お味噌汁は好きですか?と。1クラスのうち、1人だけ苦手な人がいただけで、他の人はお味噌汁が好きなのでした。
もちろん、ほとんどのご家庭がお味噌をスーパーなどでご購入されていると思うのですが、ハッピー太郎醸造所の位置する長浜など地方では今でもご自分でお味噌を仕込まれる方が結構おられます。これを「手前味噌」というのですね。

それぞれのご家庭のそれぞれのお味噌の味がある。お醤油と同じで、生まれ育った家庭の味は、大人になってからも自分の味覚の根幹となります。そしてそれは日々の癒しとなる。旅行に行っていつもとは違ったものを食べるのも楽しい。でも帰宅して口に入れたくなるのは「いつものお味噌汁」。腹の底から癒されるのはそういうこと。それをみんな知っているからこそ、大人になって子供が産まれたときに「お味噌を手作りしてあげたい」となるんですね。

そう、お味噌は、子孫に残してあげられる、味覚と癒しの財産なのです。自分が先祖から受け継いだものを全肯定して伝えてあげられるものがあるって凄くないですか?
私はなんなら日本の食の中で一番残すべきなのはお味噌とお米なのではないかと思っているくらいです。お米と味噌汁さえあれば、何がなくても生きていける。安全な水があって、火さえおこすことができたら、温かいご飯と温かいお味噌汁が提供できる。
*今年の能登地震の被災者のみなさんのご苦労は忘れてはなりませんね。水がないということなのですから。

ハッピー太郎醸造所が糀屋として認知されていったのは色々と理由があるのですが、経営の柱となったのは「手前味噌の会」でした。私が材料を準備して、参加者の方に仕込んで持って帰っていただき、自宅で熟成していただく。リピートで20kg仕込む方もいらっしゃったりして、人気の会になっていました。
今年も1月〜4月まで開催。無事終了。

ハッピー太郎醸造所はどぶろく醸造が事業のメインとなりましたが、
この「手前味噌の会」は辞めません。むしろ、いつかどぶろく事業を元気な若い後輩に任せて、自分自身は「味噌爺さん」になってお味噌作りを教えつつ余生を楽しく過ごしたいなという妄想もしています。それくらい、手前味噌作りは癒しにあふれています。

【伝える人】 ハッピー太郎 / 池島幸太郎

酒蔵の蔵人12年の経験を活かして独立。2017年に麹をメインとした発酵食品工房を滋賀県彦根市で開業。糀・味噌製造をメインとして鮒寿司なども製作。手前味噌の会では痒い所に手が届く解説で好評。発酵のコツを言葉にすること、発酵研究の文献探索、発酵職人探訪が好き。

2021年12月に長浜市「湖のスコーレ」へ完全移転して、どぶろく醸造の免許を取得し醸造を開始。中でも副原料入り低アルコールどぶろく「something happy」シリーズは今までにない体験の飲み物として注目を集めている。https://happytaro.jp/

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