COLUMN

コラム記事

改めて、良い米麹とはなんぞや。

改めて、良い米麹とはなんぞや。

梅小路醗酵所でアドバイザーを務めております、ハッピー太郎こと池島幸太郎です。普段滋賀県長浜市で米麹屋の発展系としてどぶろく醸造を営んでおります。

みなさん、「良い米麹」ってどういうものでしょう?

もしかして、「米麹」はどこで買っても一緒、と思っている人がいるかもしれない。それから、もしかしたら「どんな米麹を買えば正解なんだろう?」って悩んでいる人がいるのかもしれない。そして「私の米麹はこれよ!」と決めている人もいるかもしれない。

発酵ブームとはいえ、実は諸説あって、みんな手探り、口コミが命の、米麹セレクト文化だと思います。本当は自分が住んでる集落に一軒糀屋があって、そこの米麹屋で買えば、その土地の味になったので、それが一番幸せなセレクトだった。でも、今はそれがほとんど叶わないですよね。

米麹はメーカーによって味が違う

そもそも米麹ってメーカーによって味が違うことをご存知でしょうか?
米麹を作る菌「種麹」も、作り方も、原材料の内容も、実は全部違う。そう、米麹って全部違う味なのです。
米麹は甘酒作ったり、塩麹を作ったり、お味噌を作るときに使うものです。それは米麹に含まれる「酵素」を利用するのですね。酵素がお米や大豆を溶かします。で、その酵素は何種類もあって、そのバランスも、量も全く違う。よって、出来上がった甘酒などの味、香りなど、まったく違うものになるのです。そう、驚くほどに違うのですよ。

あれ?不安になりました?
「これがいいって決めてほしい」
と思うのは、現代人の性ですよね。
選択肢が多いことって良いことだと思われているかもしれないけれども、でも、選択肢が多いがゆえに悩んでしまうのも、現代人の宿命です。

違うことは良いことです。甘みが強いもの、旨味が強いもの。柔らかいもの、硬いもの。それぞれで良いところがある。では良い米麹っていったいなんでしょうか。

良い米麹の条件を一つ定めるとしたら

良い米麹とは何か。
私としては「美味しい」基準は言えません。「美味しい」は人により、地域により、時代により、違うものだと思うので。
そこで、
『なんらかの酵素量が多いもの』
が良い米麹と定義したいと思います。

甘酒ならお米のデンプンをよく分解して甘さが多い方が良いし、お味噌なら大豆が分解されて旨味が多い方がよいかもしれない。好みもありますが、甘くない甘酒、旨味の薄いお味噌、、、、はあまりポジティブではありません。分解力が強いとは「酵素量が多い」と言い換えることができます。
甘さが強い米麹なのか、旨味が強い米麹なのか、これは好みがわかれますし、どちらも良い米麹と言えるかもしれない。なので、「なんらかの酵素量が多いもの」が良い米麹であるといってもおかしくはないと思います。

じゃあ、それが良い米麹であるかどうかは、どうやったらわかるのでしょうか?

使ってみなきゃわからない?

身も蓋もないことを言ってしまうと、実は
『使ってみなきゃわからない』が一番正解。

これがまたみなさん不安になる要素ですよね。
買う前にそのクオリティが知りたいわけで、だからこそ「口コミが多い」「老舗である」ことが信頼される条件になったりします。
一番はやっぱりその米麹を使ったことがある人に聞くのが一番です。どんなタイプの米麹だった?と。

このままでは「じゃあこのコラムなんだったの?」という話になりますので、一つ、大切な見た目の話をしましょう。なぜなら、私たち米麹屋も「見た目」を米麹の出来の大きな要素として判断材料にしているからです。
そして「この見た目は良い糀の絶対条件ではない」「これは良い糀とは言えない」「これは良い米麹の可能性がある」ということがあります。それを申し上げておこうと思います。あとは個性です。自分に合うものを探せば良い。

良い糀の条件

避けた方が良い見た目
・麹菌が繁殖せず「お米」そのものの色である割合が多いもの
麹菌を蒸米に繁殖させたものが米麹なのですが、よく繁殖したものは蒸米の表面が白くなります。その白い割合が多ければ多いほど、お米に麹菌が大繁殖していると考えてよいです。ということは、白い割合が低いもの。つまり、麹菌が繁殖せずに、蒸米から水につける前の乾燥したお米の状態に戻った半透明のものは、酵素量としては少なくなります。これになってしまっている米麹は意外と多い。

見た目の絶対条件ではないもの
・毛が長くふわふわしている米麹でなくても良い
これはいまだに多くの人に「良い」と信じられている見た目です。
実は決して見た目がふわふわと毛が生えているからといって良い米麹とは限らないのです。
麹菌を蒸米に繁殖させたものが米麹なので、酵素量が多くなるためには蒸米自体に麹菌が大繁殖することが必要であって、空気中に毛を伸ばしても関係ないっちゃあ関係ない。もっといえば、毛が長い菌も開発されていて、フワフワと見た目麗しい糀を作ることはそんなに難しいことでもありません。

・固まっている板糀でなくても良い
実は、上で書いた「フワフワと毛が生えた米麹」も、ほぐしてみると中のほうは白くなくて乾燥したお米状態のものがたくさん出てきたりすることがあります。同じように、固まって板のようになっている米麴も、ほぐしてみると、乾燥したお米状態のものがたくさん出てくる場合があります。これも良い米麹とは言えません。

良い米麹の可能性がある見た目
・米粒一粒一粒にしっかり麹菌が繁殖して色が冴えているもの
上のフワフワして塊になった米麹をほぐしてみて、一粒一粒のお米の全面が真っ白になっていて、米麹菌が繁殖しまくってたら、それは酵素量の米麹である可能性があります。薄茶色のような冴えない感じのはやめておきましょう。

米麹屋のハッピー太郎としては、以上のような見解です。
ちなみに、米麹の購入先で困ったら、かつて指導させていただいた梅小路醗酵所さんの米麹がおすすめ。小ロットでご購入いただけます。または滋賀のハッピー太郎醸造所がおすすめです。私の米麹は「完熟糀」を標榜しており、甘酒がとっても甘くなることで大好評ですよ。はい、手前味噌でした!笑

【伝える人】 ハッピー太郎 / 池島幸太郎

酒蔵の蔵人12年の経験を活かして独立。2017年に麹をメインとした発酵食品工房を滋賀県彦根市で開業。糀・味噌製造をメインとして鮒寿司なども製作。手前味噌の会では痒い所に手が届く解説で好評。発酵のコツを言葉にすること、発酵研究の文献探索、発酵職人探訪が好き。

2021年12月に長浜市「湖のスコーレ」へ完全移転して、どぶろく醸造の免許を取得し醸造を開始。中でも副原料入り低アルコールどぶろく「something happy」シリーズは今までにない体験の飲み物として注目を集めている。https://happytaro.jp/

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 12202021photo027web-1024x683-1.jpg