COLUMN
コラム記事
梅小路醗酵所でアドバイザーを務めております、ハッピー太郎こと池島幸太郎です。
先日、資生堂「アクアレーベル」のブランドサイト内の「HAKKO WELNESS JOURNAL」にハッピー太郎と梅小路醗酵所の取材記事が掲載されました。
実はこれはマガジンハウスの「コロカル」というウェブマガジンとのタイアップ記事なんですね。
コロカルは「ローカルこそかっこいい」というコンセプトで、ローカルな人気者・つまりは日本津々浦々のはみ出しもの・目立ちなじもっちーに焦点を当て、彼らが地域でいきいきと踊っている様が伝わる、読み応えが過ぎる記事の嵐。10年くらい前のローカルな記事も載っていて、ライブラリーとしても蓄積がすごい。
今回掲載された内容の大半は、梅小路醗酵所で開催した「鮒ずしの作り方ワークショップ」。「コロカル」に鮒ずしが載るのはすごく納得がいく。ぴったりだ。鮒ずしって滋賀県に特化してる、最高にローカルな発酵食品だから。
「コロカル」の記事をよく見ると、sponsored by 資生堂 となっており、この記事の拡大版が資生堂「アクアレーベル」のブランドサイトに掲載されている。(そういう仕組みで質の高い記事というのは創られるのだと勉強にもなったり)
化粧品の国内シェア1位、資生堂。有数の大企業が、「鮒ずし」をブランドサイトの一部に載せて良いとした、ということですよ。これ、ひと昔前にはちょっと考えられなかったことではないだろうか。もちろん、記事のライターさん(タブレの太田さん、サンキュー♪)の積極的なプレゼンがあった、とは言え、だ。
「鮒ずし」と言えば the 発酵。愛してやまない人にはたまらないのだが、食べず嫌いが多い、米と魚の漬物だ。イメージが良くない人もいる。もちろん、私の鮒ずしは丁寧な仕事による綺麗な香りなので、そういうイメージと違う衝撃を与える自信はあるのだけれども、一般的には先入観の壁の高さを感じることも多い。
その鮒ずしが、資生堂の化粧品ブランドサイトに載るのは、時代が変わった感がすごい。40過ぎの男性の私が言うのもなんだけれども、化粧品というのは「美」のためで、イメージとして女性に夢を与えるものでなければならない。のはずだ。ちょっと鮒ずしはマニアで地域色が強すぎはしないか。そして、イメージ的に大丈夫なのか。我ながら心配してしまう。
でも。資生堂さんは私がいうのもなんだけど、きっといち早く時代の動きを掴み、これからの方向を見定めている企業だと思う。冗談もしくは気の迷いで鮒ずしを取り上げるなんてことは絶対にない。ましてやブランドイメージを損なう可能性のあるものを載せるわけはない。とすると鮒ずしと美とはどこかで繋がっている、もしくはイメージ的に良いものだとご判断いただいたに違いない、と思うのだ。
ということで、資生堂さんのお考えを想像するために、鮒ずしにまつわる話を広げてみよう。
鮒ずしが漬けられている滋賀県で数十年前にフィールドワークで調査された方達がおられたので、その調査による証言をあげてみると、、、
1「お腹の調子が悪い時に食べる」
2「体調が悪い時の滋養強壮に」
3「産後の肥立ちをよくするために」
などなど、、、、が記録として残っている。
鮒ずし始め熟鮓は、変わり者が食べる嗜好品と言う位置づけとして見ている人が多いかもしれないが、この証言のように、本来は普段より常備しておき体調を整えるものとしての薬代わりなのだ。
かく言う私も、かつて勤めた酒蔵で、牡蠣の土手鍋を賄いで食べた時に当たったことがある。救急に駆け込むくらい酷かったのだが、そんな時、蔵の女将さんが「これを食べなさい」と持ってきてくれたのが、熟鮓だった。ウグイだったか、鮎だったか、今となっては忘れてしまったのだが、小さめの魚一匹、本熟れの、しっかり発酵したものだった。
それを食べて、翌日。すっかり治ってしまったのだ。たまげたよ、本当に。この経験は衝撃だった。それ以来、身体の緊急事態の時は鮒ずしなどのなれずしに頼るようになった。どんな薬よりも負担なく効き目があるのだ。
あれから10年ほど経つ。
こうして何のご縁か、発酵食品を作る仕事をするようになって、健康的に体重が12キロ痩せ、免疫を落とさずダイエットできた。ちょっとした自慢だけど、創業して以来4年間風邪をひいていない。ちなみに私の仕事場も部屋にもエアコンはない。扇風機と小さな電気ストーブで夏も冬も乗り切れる。
仕事がハードで疲れた時に脂っこいものをがっつり食べる癖を捨て、鮒ずしのスープを飲む。それは細胞に染み渡る美味しさで、かつ胃に負担はかからない。熱中症になりそうな時にアイスクリームではなくて、糀の甘酒を飲むことで回復する。
手前味噌で本当に申し訳ないけれども、発酵食品を適切に食生活に取り入れ、心身に耳を傾けられるようになって、思考が前向きになり、おしゃれを楽しむ余裕が生まれ、自分自身が好きになった。結果、仕事も上向くようになったのだ。
いかに発酵食品が体の中を整えるアイテムになり得るか、そしてその積み重ねが心に多大な影響を与えるのか。私自身が知っている。
そして、そのことを知っているお客様が実は結構いらっしゃって、日々教えられている。私の今のお店のお客様は9割が女性で、年齢関係なく体の中から綺麗になりたい、と考えておられる人が多い。特に腸の調子と、睡眠の質、そしてお肌の調子が連動していることを実感している人が多い。
つまりは、人の本来の美、偽りではない健康的な美しさ。それを引き出すためには体の中に意識を向けた方が近道であるとみんな気づいている。そんな時代なのだろうと思う。
つまりだ。ここはちょっと勘違いしてしまおうではないか。資生堂さんは「温故知新」的に共感してくれているのだと思う。本来の美しさとは身体の中から。それは大前提の上で品質の高い化粧品を開発していく。もしくは身体の中からも外からも、美にアプローチしていく。そこに、日本の発酵の底力は欠かせない。
だから、発酵に関する情報をしっかり発信されているのではないだろうか。
40過ぎのローカルなおじさんが美を語るなんてとんでもないのだが、今回の記事掲載は鮒ずしに関する社会の認識が変わった感がすごくて、つい語ってしまいました。
なお、この記事は後編も予定していて、どうして滋賀に拠点を置く私が京都で取材を受けることを提案したか、理由がわかります。それを次回、語りましょう。乞うご期待です。
【伝える人】 ハッピー太郎 / 池島幸太郎
酒蔵の蔵人12年の経験を活かして独立。麹をメインとした発酵食品工房を滋賀県彦根市で開業。
糀・味噌製造をメインとして鮒寿司なども製作。手前味噌の会では痒い所に手が届く解説で好評。発酵のコツを言葉にすること、発酵研究の文献探索、発酵職人探訪が好きです。2021年12月に長浜市「湖のスコーレ」へ入居予定。どぶろく醸造の免許申請中。https://happytaro.jp/