COLUMN
コラム記事
目に見えないものへの敬意
2021年4月16日
京都西陣にある、創業大正6年の味噌蔵 加藤商店様を訪問見学させていただきました。
昔ながらの「お豆腐屋さん」や、約300年続く老舗料理店「萬亀楼さん」などが建ちならぶ西陣の一角に
創業100年続く老舗味噌屋さんがあります。
4代目の加藤昌嗣さん。大学生だった頃、お父様が突然倒れられ、急遽休学し味噌づくりを始めざるを得ない状況からのスタートだったそうです。右も左もわからない中で加藤さんを支えてくれたのが京都味噌組合に加盟する6社の味噌蔵さん。親代わりとなって親身に指導くださったというお話は、京都の味噌文化を支え続ける味噌蔵さんの絆の深さを感じました。
機械化が進む中、昔ながらの製法を守りながら、毎日麹や味噌と向き合い、手作りの味噌づくりを実直に続けてこられた加藤さん。今でもほとんどの工程を加藤さんお一人でこなされていると伺い頭が下がりっぱなしでした。とにかく甘くて濃い加藤商店のお味噌、そのお味は加藤さん独自の方法で作る手作りだからこそ、成せるお味噌なんだとわかります。
今では数少なくなってきた板の「麹蓋(こうじぶた)」でつくる麹。「一枚一枚大変やけど、これがやっぱり一番美味しい麹が出来る」と語る加藤さん。麹菌が活発に動き出すと、麹室は一気に酸欠状態になるため、過去には意識を失って倒れたこともあったと笑いながら語ってくださいました。
味噌を漬け込む桶は、創業時に醤油蔵から譲り受けた木の桶を使用。その重さはなんと2t。使用後は毎回、大人ふたりの人力で倒し手洗いをされているとか。一週間程乾かした後、「清め塩」をまんべんなく振り、起こして再び使うという命がけの作業。想像しただけでも壮絶です。
お父様である3代目加藤芳信さんが、器具ひとつひとつに手で書かれた「ありがとうございます」の言葉。
「人間は自然界のものを使わせていただいているだけ。菌は目に見えないけれど存在している。その菌のお蔭で美味しいお味噌を作っていただいているのだから、目に見えないものへの感謝の気持ちを言葉で伝えることが大切」と、お父様が一番はじめに教えてくださったそうです。
味噌づくりをはじめたばかりの頃は、作り方もわからない中、得意先へ配達に行っては怒られ、毎日イライラしていたとか。「今思えばイライラしている気持ちで作っているお味噌は全然美味しくならなかった」と振り返ります。穏やかな気持ち、感謝の気持ちをもって接することが、美味しい味噌づくりには一番大切だと語る加藤さんの言葉には真に迫る重みがあります。
さいごに「千年以上前の先人が産み出し、守り続けてきた製法が、いま科学的に証明されはじめています。その先人の知恵と伝統技術を後継することが、京都の味噌文化に限らず、日本の食文化に繋がっていると思っています」と加藤さんは語ってくださいました。
目に見えないものへの敬意。そしてお父様の想いと共に受け継ぐ決意。
加藤さんの言葉ひとつひとつには、内なる強き想いや覚悟を決めた時に灯る青い炎のように、弱まることなく燃え続ける真の強さを感じました。