COLUMN

コラム記事

醗酵裏話「ブルワリーから見た酒販売専門店さんの存在意義」②

醗酵裏話「ブルワリーから見た酒販売専門店さんの存在意義」②

梅小路醗酵所でアドバイザーを務めております、ハッピー太郎こと池島幸太郎です。
さて、前々回の醗酵裏話「醗酵裏話「ブルワリーから見た酒販売専門店さんの存在意義①」では飲食店さんと酒屋さんでは免許そのものが違い、免許する行政機関も違うことをお伝えしました。

今回は、酒販売専門の酒屋さんと「ブルワリー」(特に私のような新規の)との近しい関係について、お話ししたいと思います。ハッピー太郎醸造所にとって、具体的な面でなくてはならない事業パートナーなのです。

どぶろく特区と一般酒造免許の違い

ハッピーどぶろく。どぶろくはぷくぷくとした泡が魅力ですね。

そもそもハッピー太郎醸造所が現在持っている酒造免許は「その他の醸造酒」と言います。なんじゃそりゃって感じの免許の名前ですが、「お米のどぶろく」だけでなく、様々な材料・技法の酒が醸せるのがこの免許の特徴です。(もちろん製造方法はあらかじめ税務署に提出して認められる必要があります)
さて一方「どぶろく」ではいわゆる「どぶろく特区」の例、つまり構造改革特別区域法により濁酒(どぶろく)製造免許が特定農業者に免許される例をご存知の方も多いでしょう。こちらは濾さないどぶろく限定の免許です。また特区にはどぶろくだけでなく、ワインの特区もあります。

では、私が免許されている酒造免許と、特区で免許される濁酒製造免許と根本的に何が違うかと言いますと、一番大きな違いは「最低製造数量基準」があるかどうか、ということになります。
「最低製造数量基準」とは、「お酒を〜リットル以上作ってよね!」という税務署のお達しで、私の免許では6千リットル以上とされております。免許申請、及び免許更新の際に「製造数量見込み」を6千リットル以上として計画を提出する必要があります。一方、「どぶろく特区」であれば、極端に言うと「1リットル」でもOKなのですね。(とは言え1リットルじゃあ事業としての魅力がないわけですけれども)
余談ですが、日本酒の製造免許要件としては6万リットルであり、私の免許の10倍です。いやあ、そんなに作るのは小さなブルワリーは無理です。苦笑 

「取引承諾書」1万2千本の酒を醸すために。

これが酒造免許だ!まずは「期限付き免許」1年更新です。

さて、日本酒の6万ほどではないものの、私の免許の6千リットルも相当な数です。500ml瓶で出荷したとして「1万2千本」の商品を醸し、いやらしい話ですが売り捌く必要があります。この本数を「私が手売り」するのはハードルが高い。1年300日営業販売したとして1日平均40本を一般のお客様に販売できるかと言うとこれは現実的に厳しいですね。安い酒ではないですし。

この状況はすでにブルワリーを立ち上げる前に把握できていることなのですが、それと関連してそもそも酒造免許を申請するときに必要な書類があります。それが「取引承諾書」。つまり「製造出荷し始めたら、あなたの酒を買いますよ」という酒屋さんの署名印鑑が必要なのです。私の場合、5社程度お願いをしまして、これだけお約束があるから6千リットルのお酒を造り売り捌くことができます、と計画書を書いたように覚えております。

つまり、醸造所を立ち上げる前・お酒が出来る前から、どんなブランディングでどんなクオリティのお酒か分からないうちから、「買うよ。応援するよ!」という酒屋さんとの繋がりが必要だということになります。もちろん「署名捺印」していただいたからといって法的に「仕入れなければ罰則がある」わけではないのですが、私としてはお願いするにあたって非常に覚悟がいることでした。何もサンプルがないのに「買ってください」って頭を下げるって、商売上ありえないですよね。だから、今でも印鑑を押してくれた人たちには頭が上がりません。本当に感謝しています。(もちろん「梅小路醗酵所」を経営する上田さんにもお世話になりました。)

つまり「お前の人となりなら間違いないものを作るだろうから応援してやるよ」という酒屋さんがいてこそ、新規醸造所は立ち上げられるのですし、このような熱い気持ちをもった酒屋さんはやはり「酒専門酒販店」さんであることが多いです。酒類を販売し事業を成り立たせるという現実面と「一肌脱いで酒文化を育む」という使命感、その両輪をお持ちの酒販店さんによって、我々新規ブルワリーは支えられているのです。

【伝える人】 ハッピー太郎 / 池島幸太郎

酒蔵の蔵人12年の経験を活かして独立。2017年に麹をメインとした発酵食品工房を滋賀県彦根市で開業。https://happytaro.jp/

糀・味噌製造をメインとして鮒寿司なども製作。手前味噌の会では痒い所に手が届く解説で好評。発酵のコツを言葉にすること、発酵研究の文献探索、発酵職人探訪が好き。2021年12月に長浜市「湖のスコーレ」へ移転して、どぶろく醸造の免許を取得し醸造を開始。中でも副原料入り低アルコールどぶろく「something happy」シリーズは今までにない体験の飲み物として注目を集めている。