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生酛造りに初挑戦 ③

生酛造りに初挑戦 ③

梅小路醗酵所でアドバイザーを務めております、ハッピー太郎こと池島幸太郎です。

前回、前々回に引き続き「生酛造り」の挑戦のお話です。

「花垣」南部酒造場を卒業されてフリーになっていた日置大作氏にご指導を受けながら、「生酛造り」特有の摺り潰す工程を「長靴で踏み踏みする」ことで代用したことを前回記させてもらいました。その時は画像だけだったのですが、なんと出血大サービスで、動画をおつけしましょう!世の醸造家も注目??

いや〜、今見ても面白い!人によっては衝撃映像???

そして、十分に潰した後は2つにわけていたタライを一つの桶に寄せる「酛寄せ」を行い、しばらく低温で静置しておきます。「打瀬(うたせ)」と言います。

そして、いよいよ!ダキ入れです。
「ダキ」ってなんでしょう?それは、これです。

右が桶、左が「ダキ」、その他は保温用資材。

この、蓋付きステンレス容器の中にお湯を入れて、どろどろのもろみの中に浸けることを「ダキ入れ」っていいます。ダキ入れるのは、糖化を促進しゆくゆくは乳酸発酵へつなげていくのですが、

このダキのためだけに、この蓋付きステンレス容器を買ったのだよ、、、、!
この選定のポイントは

1お湯が絶対に漏れないこと。
2酸に強い素材であること(良いステンレス)。
3桶に対してちょうどよい大きさであること。

モノタロウで買いましたよ、高かった。

正直、酒蔵のサイズの10分の1くらいの容器だ。桶に対してはちょうどよいものを選んだけれども、この容器のサイズ、物量のサイズが「小さい物量では生酛はやりづらい」と言われる所以でもある。
それは、この小さな容器に湯を詰めてもすぐに冷めてしまうから。
醸造関係のモノづくりは品温管理が結構大切で、仕込みが小さければ小さいほど繊細な作業になってしまい、思ったような品温管理が難しくなる傾向にある。

そしてやはりダキ入れは難しいのであった。


品温5度スタート、ダキいれて7度にして翌日には5.5度まで下げて、、、なんて計画していたのですがなんと、

いきなり12度になるという。苦笑

いやいやいやいやいやいや高すぎ!早湧き(状況整っていないのに野生酵母が湧いてくること)したらどうしよう、、、と私は焦るのですが日置大作氏、表面上は余裕の表情。

「まあまあ、ご飯でも食べましょう」
経験がある人は違いますね、、、、、。

で、ちゃんとできる対処はやって、日々ダキ入れては抜いて、下げて、、、、を繰り返し、段々と溶けてきます。そしてちょっとだけ酸っぱくもなっていきます。乳酸発酵が始まっています。

これを何度か何度か繰り返し、
途中日置さんが自宅へ帰宅することもあり、私がダキを入れたりして、その都度品温を日置さんにご報告して、ドキドキドキドキドキドキ、、、、

ついに、日置さんが。『よし、香りが変わった。酵母添加だ』
たしかに。香りが違っている。

酵母を添加し、お湯を注ぎ酛を薄めて繁殖を促します。微生物は濃すぎる場所よりもある程度薄いところのほうが繁殖しやすい。腐敗も発酵も。


そしてーーーーーーーーーーーーーーーーー!こうなった!

ぐおおおおおおおおおおおおおおおお!
ばんざーい!湧いたぞ〜!

日置さんとハイタッチ!ちょっと2人とも、涙ぐんでたりして。

その日の晩は、近くの居酒屋で祝杯です。ほんと、酒が美味かった。

話によると、日置さんは結構プレッシャーだったそうな。ホッとされてました。
初めての水、初めての米、初めての糀、初めての環境、そしてなにより
『初めての大きさ』。

これほど小さな物量で生酛を造ったことがなかったため、思い通りの品温経過にならなかったけれども、彼の中で取捨選択があり「これは絶対大切」「これはまあ許しても良い」ということがあるそうだ。色々聞いたけど、ここではさすがに秘密。個人的にはメモにしたためてある。

ハッピー太郎にとって、生酛は若い時からのあこがれでした。でも実力もなく自分1人では挑戦できるところまでいかなかった。経営者としてリスクを取れたのは、名杜氏日置大作氏が快く引き受けてくれたから。本当に、感謝感謝大感謝。
こんな環境でも、生酛はできるんだ。素晴らしい経験となりました。


そして。生酛の酒母は順調に完成し、「もろみ」へ。これはハッピー太郎ならではのもろみとし、、、、でも、生酛の味わいを大切にしていつもより「酒母歩合」を高めにして、生酛のキャラを感じやすくして、どぶろくとして完成しました。日置さんに送ったら、とてもとても喜んでいただいて。一緒に飲もうということに。

「めちゃくちゃ美味しくできてるやん! よかったな!」
感無量でした。もろみの管理も結構プレッシャーでした。日置さんの顔を潰すわけにいかないから。にしても、自分でも美味しいもんができたなあと思います。お燗が最高でした。やっぱり、乳酸発酵は、クエン酸糀の酒母とは全然違うものになります。私はどちらも好きですが、乳酸発酵はその味の深みにおいて、やっぱり素晴らしい。

生酛。
本当に素晴らしい経験をしました。未だにうちでできたことが夢のようです。
そして、次回は日置さん無しでもう一度、トライしてみるつもりです。その時、どんなことを感じるのでしょう。今から楽しみです。

【伝える人】 ハッピー太郎 / 池島幸太郎

酒蔵の蔵人12年の経験を活かして独立。2017年に麹をメインとした発酵食品工房を滋賀県彦根市で開業。糀・味噌製造をメインとして鮒寿司なども製作。手前味噌の会では痒い所に手が届く解説で好評。発酵のコツを言葉にすること、発酵研究の文献探索、発酵職人探訪が好き。

2021年12月に長浜市「湖のスコーレ」へ完全移転して、どぶろく醸造の免許を取得し醸造を開始。中でも副原料入り低アルコールどぶろく「something happy」シリーズは今までにない体験の飲み物として注目を集めている。https://happytaro.jp/

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