【伝える人】酵素って何だろう。麹から考える。

【伝える人】酵素って何だろう。麹から考える。

2021年2月25日

梅小路醗酵所の米麹作りなどの協力をしている、ハッピー太郎と申します。

今日は巷で噂の「酵素」ってものについて、麹職人として解説しようかなと思います。

酵素ジュースって流行っていますね。酵素ジュースで検索するとレシピが山ほど出てきます。でも、そのほとんどが、「菌」「酵素」について誤解があるのが現状だと思います。
なので、麹を例に挙げて酵素ってどんなものか少し知っていただいて、安全に発酵を楽しんでいただきたいなと思います。

大丈夫、私だってゴリゴリの文系です。あなたもきっと不安から自由になって、楽しめますよ。

そもそも酵素って

そもそも酵素ってなんでしょうね。よく間違えられるのが、酵素と微生物の混同です。

ここでまず一言♪

「酵素は生き物ではありません。
そう、物質です。愛すべき、驚くべき、物質。(具体的にはタンパク質。もちろん、そこに命を感じるのはあなたの自由。)

酵素の定義はググってもらえれば出てきます。麹職人として文系的にお伝えすると、「何かが何かに変化するときに、助けてくれる物質」です(理系的には触媒と言うらしい)。
まあ、「人」も結局は小さな小さな物質の集まりになってしまいますし、命って何やねんって言い出すと大変ですが、「酵素自体は生き物ではないけど働き者だ」としておきます。そもそも酵素って、あらゆる生命活動に必要な物質です。人体でも、数え切れない酵素が常に働いて、生命維持に寄与しています。

発酵に関心がある人にとっては酵素=分解ですよね。
大きな物質が小さな物質に分解されるときに、その分解を助ける物質」が「酵素」と理解されていると思います。酵素のおかげで、分解が驚くべきスピードで進むのは確かです。

酵素がなければ、熱をかけるとか、強い酸やアルカリを用いるなど何か別の方法で強いエネルギーを与える必要があるそうです。硫酸かけて溶けてしまうというような現象(怖くて危ないやつ)を、人にとって安全な中性付近でも可能にする。それが酵素です。よく考えたら凄いですよね。

この酵素が、たーーーーっぷりと、麹の一粒一粒に含まれてるんです。その酵素と麹の関係について解説しましょう。

酵素と麹

さて、「麹」とはなんぞや。それは「穀物に麹菌と言う日本古来の菌を繁殖させたもの」です。米に麹菌を繁殖させたものを米麹と言うわけです。そして、麹菌が繁殖していくときに、酵素が出るんです。

例えば米麹では、麹菌が蒸したお米に菌糸をもぞもぞと伸ばしていく時に、そのお米を食べて栄養にしようとします。そこで菌糸から出てくるのが「酵素」です。その酵素で、対象のもの(デンプン、タンパク質、脂質など)を溶かして、糖分とかアミノ酸とかを吸収し、麹菌自身が成長するための栄養にするのです。

ここで気づきましたか?人間と同じ。口の中でかみかみして出てくる唾液、胃や腸にある消化液と、働き方は同じなんですね。食べ物を分解するものです。

麹菌が、「あ。これはタンパク質だな」と判断したら、出す酵素はタンパク質分解酵素の「プロテアーゼ」。「これはテンプンだな」と判断したら、デンプンを分解する「アミラーゼ」を出します。脂質には「リパーゼ」です。面白いことに、「万能の酵素」なるものはなく、1つの物質に必ず一つの酵素が対応するんです。これを「酵素の特異性」と呼ぶそうです。なので、ものすごくたくさんの種類の酵素を、麹菌は出します。

そんな風に栄養を十分に吸収して麹菌はどんどん成長していき立派な大人になって、さあ子孫残そう(胞子作ろう)っていう時に、人間が「あ、麹が出来上がったぜ、しめしめ」とある意味勝手に判断して収穫します。これが麹の出来上がりです。

ああかわいそうに麹菌。これから子作りって時に。でも、これが食物連鎖ってやつですね。

その出来上がった麹には上のようないろんな酵素(何十種類以上って言われてる)が、たーーーーーっぷりと含まれている状態。それを、人間が食品に利用するのです。

麹の酵素の利用

さて、じゃあ米麹を使った発酵食品はどういうことになってるんでしょう。
ご家庭での利用でよく知られる「甘酒」「味噌」「塩麹」を単純化して説明すると

「甘酒」の甘み・・・・麹に含まれる酵素「アミラーゼ」を利用して、米のデンプンが溶けて甘くなったもの

「味噌」の旨味・・・・麹に含まれる酵素「プロテアーゼ」を利用して、大豆のタンパク質を分解してアミノ酸に変わったもの。

「塩麹」の効能・・・・麹に含まれるいろんな酵素が溶け出して、料理に使える状態のもの。

こんな感じです。もちろん現実はもっと複雑ですが、私たちにとってこれくらいの理解で十分でしょう。

酵素ジュースを考える

酵素について理解が進んで進んできたところで、酵素ジュースについて考えてみましょう。

しかし実のところ、私もよくわからない、というのが正直なところです。何を持って酵素ジュースというのか、明確な定義が見つからない。そして誤解も多い。

とりあえず、酵素ジュースとは「果物とか野菜とかを切って、砂糖や水などを混ぜて置いておいて、しばらくして出来上がったもの。」という風に定義しておきます。その上での検証として、インターネットでよく誤解されている例をあげましょう。

例1 酵素が働いてぷくぷく湧いてきました
ぷくぷくしているのは何らかの酵母発酵だと思われます。酵母はグルコース(糖分)を二酸化炭素とアルコールにします。その二酸化炭素が泡となって「ぷくぷく」します。酵母の体内では12種類の酵素がこの反応に関わっているそうです。酵素は関係していないわけではないけど、それがぷくぷくさせているとは言い難い。ただ、「果物に付着していた酵母」だけが、そのジュース状の液体を満たしているわけではないだろう、とは言っておきます。できる可能性はありますが、それは果実酒並みの注意と技が必要です。そしてこれはアルコール発酵です。(そしてアルコールが1%以上出るものを作れば酒類と見なされ、日本では違法となっております。)

例2 手で混ぜて、手についている酵素を利用する
手についているのはいわゆる「常在菌」と呼ばれるもので何か酵素がたくさん手に付着しているわけではありません。手についている菌を植え付けたいなら、そうしてください。しかし、もし手が荒れていたり怪我をしたりしていたら、黄色ブドウ球菌が混入する危険性もあります。

例3 果物や野菜の酵素を摂取できるから体に良い
砂糖をまぶすので浸透圧の関係で果物や野菜の細胞から何らかの酵素が抽出されることは間違いないと思いますが、それを人が飲んだとしても、ほとんどが胃酸で分解されるという説もあります。酵素はタンパク質。それが胃酸のプロテアーゼで分解されてアミノ酸になります。全てを分解するかどうかはデータがありませんが、その効果についても万全のデータがないのが現状です。

どうでしょう。酵素ジュースって考えれば考えるほど、なぜ「酵素」が名前についているのか、よくわからないものです。特に砂糖の割合が低く水で薄めたものなどをぶくぶくさせてできたものを、ご家庭で楽しむものとしては別に構わないのですが、それを飲食店で生のまま利用するのはリスクありです。よくよくご注意ください。

でも例えば、果物を大量の砂糖漬けにするというような、例えば梅の果実を大量の砂糖漬けにする「梅シロップ」なんかは、保存方法としては優れていて、それを炭酸水で割ってすぐ飲むのは、それなりに安全だと言えると思います。

酵素の食品利用とプロとしての矜持

本来、人間は食品から酵素をそのまま食べることを考えて料理の歴史を積み上げてはいません。そして科学的にも疑問であることは述べてまいりました。

人間は、微生物が出した酵素を用いて消化吸収しやすいものをあらかじめ作った上で調理し、美味しい楽しい食事として頂いてきました。結果、体に負担がかかりにくく栄養価が高いものを摂取し、健康を維持してきたと考えられます。最近になってブームになったのが、塩麹。前もってお肉やお魚を漬け込んでおいて、タンパク質や脂質などを分解しておいて、胃腸の負担を軽くするという調理法です。

よく考えたら、お味噌汁だってそうです。タンパク質の塊である大豆を麹と合わせて、半年〜1年くらいゆっくり時間をかけて、麹の酵素で分解して出来上がった「お味噌」。そして美味しいお出汁と共にいただくのがお味噌汁です。つまり、酵素で分解させる時間が思いっきり長い発酵料理とも言えますね。

もちろん、酵素の利用には今後も可能性があり、歴史が淘汰したものこそが正しいとはいうことはできません。医療関係・環境方面でもさらに実践・研究が進められると思います。料理業界の方でも驚くべき酵素調理法が開発される可能性もあります。そして今でも世界の奥地で未知の発酵食品がある可能性もあります。

例えば、焼酎用の黒麹なんて少し知られてきましたが、その酵素を利用した料理なんてまだまだこれからですよね。梅小路醗酵所でも製造を開始しております。

発酵や酵素、食中毒、、、、色々と学ぶと底がありませんし、頭でっかちになりすぎるのも楽しさが失われますから、程々が良いと思います。ただ、最低限の知識と慎重な行動で食中毒を防ぐことはでき、料理を食べてくれる人にとって一番大切な安心感を与えることができるはずです。それは家庭料理でも、レストランでも、同じことだと思います。

特に、料理人や講師などのプロとしては、安全性について慎重に見極めながら、その上でのクリエイティビティをお客様に提案する矜持を持つ必要があると思います。そしてそれが本来のブランディングと価値創造の礎となるはずです。

とはいえ、健康的に幸せに生きていく技としての伝統的な調理法の料理とともに、クリエイティブで自由な料理の可能性を秘めているのが発酵由来の酵素を使うことであることは間違いありません。これからにますます注目されることでしょう。その発展を麹職人として楽しみにしています。

一麹職人のたわごとではありますが、どうぞご参考に。そして、もちろん、微生物が出す酵素を大いに使わせてもらって、今後も楽しい発酵ライフを送りましょう!

【伝える人】 ハッピー太郎 / 池島幸太郎

酒蔵の蔵人12年の経験を活かして独立。麹をメインとした発酵食品工房を滋賀県彦根市で営む。
糀・味噌製造をメインとして鮒寿司なども製作。手前味噌の会では痒い所に手が届く解説で好評。発酵のコツを言葉にすること、発酵研究の文献探索、発酵職人探訪が好きです。

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