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コラム記事

発酵裏話「椿と麹」

2021年11月25日

発酵裏話「椿と麹」

梅小路醗酵所でアドバイザーを務めております、ハッピー太郎こと池島幸太郎です。

資生堂「アクアレーベル」のブランドサイト内の「HAKKO WELNESS JOURNAL」にハッピー太郎の記事「日本の発酵力」が掲載されました。前編は梅小路醗酵所での鮒ずしワークショップの様子でしたが、今回は後編「種麹編」についての話題です。

今回は京都市内で300年以上の老舗種麹メーカー「菱六」さんとのコラボとなりました。記事をご覧いただけたらわかりますが、梅小路醗酵所での麹作り、そして菱六さんでの対談が記事になっております。

当初はハッピー太郎地元滋賀県での取材予定でしたが、私の提案で京都となりました。
それは、資生堂アクアレーベルの新ライン「アクアウェルネス」の製造に椿の発酵が関わっていることを聞いたからです。

アクアウェルネスのページよりスクショ

日本酒技術、椿、そしてコメエキス、、、、私は椿と麹の、知る人ぞ知る関係を思い浮かべるしかないのでした。
記事にも詳しく出ていますが、ちょっと解説しますと、

麹菌はカビの一種です。特に蒸したお米が丁度良い水分量と栄養状態で、昔は自然発生的に生えたカビで麹にしたのでしょう。奈良時代「播磨国風土記」には、蒸したお米にカビが生えてきて、それで酒を醸したという記述があります。

でも、蒸したお米をほっておいてカビが生えたとしても、それが無害で有用な麹菌だとは限りません。赤カビ、黒カビ、、、、など、何が生えるかわからないのです。
そこで、編み出されたのが蒸したお米に灰を混ぜてアルカリ性にし、雑菌を淘汰するという手法でした。室町時代には、麹菌の製造は産業として成立していたそうですが、その時には確立された方法だったようです。どうしてそんなことを思いついたのか、今では想像するしかないのですが、灰はこんにゃくなどの食品、染織などの伝統工芸などで使われてきましたから、灰と日本人は、想像以上に仲良しだったのかもしれません。

そして、麹菌を育成する上で、椿の灰、中でも京都では大原のものが最上とされていたのでした。そのことは記事に菱六もやしの助野社長が述べておられますから、ぜひご覧ください。

このことを以前助野社長より聞き及んでいた私は、発酵、椿、と聞いた瞬間に「京都での取材しかない」と閃いたのでした。助野社長は私が以前酒造りをしていたことからのお付き合いです。今現在米麹屋を営んでおり、種麹は菱六さんのもの。しかし、種麹屋さんは日本酒蔵、味噌蔵、醤油蔵など、、、特に菱六さんは京都伏見や灘の酒蔵とおつきあいがあります。私が仕入れさせていただいている種麹の量などたかが知れております。なのにも関わらず、いつも丁寧な対応をしていただける素敵な方です。蔵人時代の思い出話をいたしましょう。

菱六もやし玄関の看板


酒造技術者の勉強会がありました、そこにゲストとして菱六の助野社長も参加されていて、夜の交流会がたまたま同じテーブルになりました。そこで、私は疑問を投げかけました。
「社長、種麹の在庫はどのように管理しているのでしょう。吟醸麹などは発芽率が大事だと思うのですが」
というような、聞く人が聞けば、私のようなぺいぺいの蔵人の質問とは思えない、ちょっと失礼かもしれない内容でした。

そして翌年。同じ勉強会で助野社長に再会。その時にこう言われるのです。
「去年そういう指摘を受けたので、在庫管理をよりしっかりすることにし、古い種麹は全部廃棄しました。」

言葉が出ませんでした。本当にびっくりしました。何の責任も負えないただの蔵人の発言を記憶し、会社内で対処し(つまり人に納得してもらい、動いてもらい)、それを忘れずご報告されたわけです。感動というよりも衝撃でした。
それ以来、自分が種麹を買うことがあるならば、絶対に菱六さんにお願いしようと決めていました。ということで、感謝と信頼を胸に、菱六さんの種麹を今も使っています。

気分を変えて、少し楽しい話をいたしましょう。
資生堂「アクアウェルネス」の椿種子発酵エキスは、長崎県五島列島での製造とのこと。実は私、今年の7月に五島列島へ視察に行ってまいりました。

五島の海

五島列島には教会がたくさんあります。今でも日曜日はミサがあり、駐車場はいっぱい、熱心な信者さんが集まります。その椿とキリスト教は大きな関係があるのです。
椿はキリスト教信者にとってシンボルであった

私が訪れたのは、新上五島町。カトリック教会が29もあり、別名「祈りの島」と呼ばれます。そして椿の本数が五島列島でも一番多いそうな。

現在は椿を利用した製品が色々と販売されていますが、一番有名なのは椿油。私はつい食べ物が気になりますが、島の名物「五島うどん」も椿油が使用されているものもあります。この五島うどん、細めで喉越し良く、伸びにくく、とても美味しいですよ。ちょっと太めのそうめん、といった感じです。

上五島「とらや」のうどん
箸置きにも椿

ところで私がわざわざ視察しにいったのは、椿ではなく、お塩の生産者でした。(またその話をしましょうね)
でも、何の予備知識もなかった私は、五島がいかに椿の島であるか、信仰の島であるか、そこかしこで感じることができ、椿への人々の思いや営みに想いを馳せることとなりました。

椿の存在は日本各地の日本人にとって欠かせないものであったし、利用も多岐にわたり、これからも日本人に身近な存在であり続けるのでしょう。
今回の資生堂「アクアウェルネス」での椿種子発酵エキスを配合していることは、心身が健やかになるための日本古来の知恵を思い返すきっかけとしても、なかなか意義深いことであると感じます。

【伝える人】 ハッピー太郎 / 池島幸太郎

酒蔵の蔵人12年の経験を活かして独立。麹をメインとした発酵食品工房を滋賀県彦根市で開業。
糀・味噌製造をメインとして鮒寿司なども製作。手前味噌の会では痒い所に手が届く解説で好評。発酵のコツを言葉にすること、発酵研究の文献探索、発酵職人探訪が好きです。2021年12月に長浜市「湖のスコーレ」へ入居予定。どぶろく醸造の免許申請中。https://happytaro.jp/