COLUMN
コラム記事
梅小路醗酵所でアドバイザーを務めております、ハッピー太郎こと池島幸太郎です。
ハッピー太郎、長浜市で最近どぶろくを醸し始めております。
米の酒を醸しているわけですが、改めて思います。「発酵は、水といかに仲良くなるか」だなあと。
ここの土地の水は硬度が150ほどあり、カルシウムも豊富。液化酵素が効きやすく、酵母がとても元気になりやすいのです。ここまで硬い水で酒を仕込むのは初めてで、醪(もろみ)が見せる表情に、驚きの日々です。
発酵食品それぞれで水の量というのは違いますが、米のお酒は、蒸米に含まれる水、麹に含まれる水、そして、、、、たくさんの仕込み水です。仕込みに使う白米量に対して、おおよそ100~150%の水が使われます。
この100~150ってのが今回のポイントで、同じ仕込みで100%の水の場合と、150%の水の場合とでは、発酵が全然違ってきます。100の時は濃厚になるわけで、150の時は比較的薄くなります。濃厚な時は微生物の活動も抑制気味になり、薄い時は微生物が増殖しやすくなります。
酒造りでの基本的な技術に「追い水」があります。醪を観察していて、濃厚すぎて酵母が活動しづらそうだな、と判断したら、「追い水」をして少し醪を薄めてやり酵母の活性化を促すのです。このタイミングを見誤ると、うまく発酵が進まなくなってしまうこともありますから、特に仕込み直後の様子は丁寧に観察しなければなりません。
ところで、この仕込みにおいての「水」の重要性を知っていると、他の発酵食品の仕込みに関しても応用が効きます。
1お味噌の仕込みの水分量、重石のある無し。
→水分が少なすぎるとパサパサの味噌になるし、多すぎると腐敗に傾く。重石は全体の水分を均一にする目的もある。重石をしなければ水分は桶の底に溜まる。
2甘酒の仕込みの水分量
→ご飯と麹だけの甘酒は濃厚になるが分解に時間がかかる。逆に麹とお湯の甘酒は分解が早くてシャバシャバになる。出来上がってからの日持ちは、濃厚な方が日持ちがする。
3醤油麹の醤油の量と濃さ
→量が少ないと麹が硬いままのことがある。濃厚すぎる醤油では発酵は進まないこともある。醤油を水で薄めてやると発酵が進みやすい(瀬戸内の「醤」などは醤油を水で薄める)。
4鮒寿司の重石加減
→鮒寿司の失敗の一つに、桶の底の方の鮒寿司が硬いことがある。それは重石が重すぎて水分が上に上がりすぎて、桶の底の方の水分量が少なくなり、発酵が進みにくくなったためと考えられる。
5漬物の塩漬けの際の重し加減
→脱水のためにはしっかり重石をかけた方が良いものの、その野菜の持ち味を活かすために、重石を途中で軽くすることがある。ハッピー太郎の日野菜漬けはその塩梅が命。
私が仕事としていることで今パッと思いつくだけでも、これだけある。発酵仕事は水分の塩梅や行方を見極めること、でもありますね。
よく考えると、人間も水分がほとんどです。私たちは水でできている。健康の基本は体内のちょうど良い水分であると、皆さん知っておられるでしょう。また、地球はたくさんの水で覆われています。山から湖、海へと水は流れていきます。その水の動きが健やかであるかどうか。水を観察し、大切にしようとする心が、実は、発酵仕事からも育むことができるのではないかと、私は考えています。
【伝える人】 ハッピー太郎 / 池島幸太郎
酒蔵の蔵人12年の経験を活かして独立。麹をメインとした発酵食品工房を滋賀県彦根市で開業。https://happytaro.jp/
糀・味噌製造をメインとして鮒寿司なども製作。手前味噌の会では痒い所に手が届く解説で好評。発酵のコツを言葉にすること、発酵研究の文献探索、発酵職人探訪が好きです。2021年12月に長浜市「湖のスコーレ」へ移転。どぶろく醸造の免許をついに取得。